我が魂の故郷……

「おはようございます!」
元気に挨拶をくれたのは、野球部キャプテンS君。帽子をさっと取って姿勢を正し、はつらつとした挨拶だった。私が中学校長に採用となり、初めて出勤した朝のことだ。「生徒が自分らしさを大いに発揮する学校を…」と、意気揚々、スタートラインに立った日。春の日射しが穏やかで優しい朝だった。
 三月になり、卒業式。式辞の中で、「自分なりの答えを見付け、強く生きてほしい」と卒業生にエールを送る。S君の進学先は私の母校だった。野球も続けると言う。S君を見送った時、「あなたが三年生の夏、あなたと、母校を応援に行くよ」と約束した。
 私の次男も母校の卒業生だった。学校生活の全てを野球に費やした。母校のユニフォームを着てグランドを駆ける姿が、父親として、大先輩として嬉しかった。誰よりも大きな声を出し、チームを盛り立てる次男がとても逞しかった。三年生となり、最後の夏大会、ラストゲーム。九回表までリードしていながらのサヨナラ負け。今でも、打球が背番号七を背負う次男の守るレフトに飛んだ瞬間を思い浮かべる。仲間同士の掛け声、保護者たちの声援、次男の涙を忘れることない。
 S君の最後の夏、私は約束を果たすべく予選会場のグランドへ向かった。約二年半ぶりの再会。グランドでキャッチボールをする彼の姿を見付けた。逞しく成長した彼の背中には、七番の文字、次男の夏がフィードバックし、胸が熱くなった。スタンドにいる私に気付いたS君は、あの出会いの春と同じく丁寧に頭を下げた。そして、満面の笑みを私にくれた。私も大きく手を振って応えた。

私の母校への思い、次男の情熱、教え子を見守る気持ちが重なった瞬間だった。彼の笑顔で、三つの感情が一つの糸でつながり、大きな感動となって私の胸を一杯にした。

そして、「我が魂の故郷なり…」と校歌を選手と共に笑顔で歌ったのだった。